「She is coming...」
2010-09-16


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すっかり秋めいてきて、旅情が募っておりますので、今日は旅の思い出を一つご紹介させて下さい。

何度か出張で訪れたドイツでは、都市間列車に食堂車があります。私のような日本人が一人で座っていると、気軽に合席になって話しかけて下さり、これはその地方の習慣なのかもしれませんが、どんなに無口な方でも食事の始めには必ず目を見て会釈をしてくれるのです。
私はすっかり気に入って、指定席代を浮かせた分で食事をしたりビールを飲んだりするのが楽しみになっていました。

5年前の冬も、ハンブルクからハノーファーへ向かうICE(特急)の食堂車で、合席になった初老の男性と食事をしました。
その方はドイツの方にしては細身でこざっぱりとした紳士風、スペインの娘さんに逢いに行くとのこと。お互いに片言のサバイバルイングリッシュですが、少しづつ言葉を交わすのが心地よかったです。

男性はこれから逢いに行く娘さんやお孫さんのことを嬉しそうに話されて、私も持参した娘の写真を見せながら家族自慢。お互いに「You happy!」と笑いあいました。

そして、少しはにかみながら、男性は胸ポケットの小さな写真を見せてくれました。赤毛のウェーブが華やかな聡明そうな女性は、亡くなった奥さんの若い頃だそうです。

 Your wife?

とおもむろに問われた私は

 In my heart.

と答えました。

写真を持っていなくても思い出せるというつもりだったのか今では思い出せないのですが、「あなたの奥さんは?」と問われて何故か「心の中にいます」と答えてしまったのです。
私は誤解させてしまったと言う気持で、言葉が詰まってしまい、外を見るふりをして視線をそらしました。

すると、そこには虹が架かっていたのです。

 She is coming.

男性はいっそう優しい目で私を観ていました。
[言葉]
[旅]

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